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  • 執筆者の写真藻谷ゆかり

生き延びるのが大変な時代、どう乗り越えるか


巴創業塾の藻谷ゆかりです。緊急事態宣言が出て、大変な日々ですね。


飲食と旅館関係の倒産のニュースが連日報じられていますが、特に歌舞伎座前の152年の歴史がある弁当屋「木挽町弁松」が廃業したのはショックでした。新型コロナ感染拡大で歌舞伎座や新橋演技場が閉鎖したことが主な理由ですが、後継者を探していて昨年から話し合いをしていたところ、新型コロナウイルス感染でその話がキャンセルされたことも廃業を決意された理由だそうです。東京商工リサーチのニュース記事がわかりやすいです。


さて上の写真は私の大学の後輩で漆職人小島ゆりさんの作品、茶道で使う棗(なつめ)です。小島さんは島根県出身で「松江藩御抱え塗師・蒔絵師十二代目 漆壺斎継承者」なのですが、十二代も一子相伝で漆の技術を継承していくことは本当に大変なことだそうです。 小島ゆりさんのプロフィールは、こちらへ 小島家の一番大きな危機は明治維新で、江戸時代は「松江藩御抱え塗師」だったのでいわば松江藩の俸給をもらっていたような形だったのですが、それがすべてなくなってしまったそうです。幸い三井財閥の最高経営者で茶人としても知られる益田孝などに愛好されてその後も家業を続けることができたそうです。小島さんのお祖父さんの時代、第二次世界大戦前後も大変でしたが、お祖父さんは高校の美術の先生をして、退職後に精力的に作品づくりに取り組んだとのこと。


小島さんのお父さんは戦後の団塊の世代に生まれ、高度成長期やバブル経済期は団塊の世代が茶道具を買い求めた(20万円の棗が売れた)ので、とても恵まれていたそうです。


小島さんは団塊ジュニア世代で、茶道をする人も少なくなり、本物の漆器の需要も減っています。そんな中、小島さんは「時代に合わせて家業をアップデートする」ことを試みています。レースに漆を塗ってアクセサリーにしているのですが、値段も手ごろなので私も買っています。下の写真は私が買った帯留めです。漆とは思えない色、軽くて丈夫な漆アクセサリーなのです。


また漆器はどうしても高くなってしまうので、小島さんは古道具店などで漆器を購入して漆を塗りなおした「リサイクル漆器」も販売しています。価格もリーズナブルですし、モダンな漆仕上げなのでとてもおすすめです。


小島さんは4月に和菓子職人などとコラボした展覧会を企画していたのですが、残念ながらキャンセルとなり、代わりに「オンライン展示会」をしています。お家でゆっくりと、より多くの人に見ていただけるオンライン展示会、ちょっと覗いてみてください。

実は小島さんは、私の本「衰退産業でも稼げます」の「増価主義」のところにも登場してます。小島さんは漆を使った「金継ぎ」をしていて教室も開いています。私の本では以下のように紹介しています。 「衰退産業でも稼げます 代替わりイノベーションのセオリー」から抜粋


「増価主義」というコンセプトは、日本の文化や日本人の美的感覚と深く結びついています。私の大学の後輩で漆職人の小島ゆりさんは、「漆の制作と金継ぎ」をしていますが、恥ずかしながら私は小島さんと知り合うまで、「金(きん)継ぎ」という言葉を知りませんでした。また私は割れた器をすぐに捨ててしまうため、「金継ぎ」をして繕うという考えがそもそもありませんでした。


「金継ぎ」とは、壊れた器を漆で接着し、継ぎ目を金や銀で装飾する日本の伝統的な修復技法です。「金継ぎ」は茶の湯が流行した室町時代から始まり、当初は茶道具など高価な器を「金継ぎ」しましたが、今は「亡き母の形見の皿」など、思い入れがある割れた器を「金継ぎ」をすることが多くなっているそうです。小島さんの顧客で、「20歳の記念に先輩からもらった大切なお猪口を、妻が洗っていて縁を欠いてしまい喧嘩になった。縁が欠けたお猪口を金継ぎして、夫婦喧嘩した気持ちを回復したい」という男性がいたそうです。「金継ぎ」をすることは、「大切な器を修復する」だけではなく、「喧嘩した心も修復する」ことにつながるのです。

そして割れた器の継ぎ目を金で装飾して、わざわざ目立つように「金継ぎ」をする美的感覚は、日本独特のものです。西洋的な価値観であれば、「割れた器を元通りに復元すること」を目指すと思います。しかし日本人は割れた器をあえて目立つように「金継ぎ」で修復し、金継ぎをした跡を「景色」と呼んで、そこに新たな美的価値を見出すのです。割れた器に「金継ぎ」することは、単に「ものを大切にする」ということだけでなく、「起こった変化を受け止めて、さらに価値を高める機会にする」ことなのです。

「金継ぎ」では漆を接着剤にして、数か月とゆっくり時間をかけて乾かします。漆は年月を経るとさらに強度が増すため、「金継ぎ」をした器が壊れやすいということはありません。そのため骨董品では「金継ぎ」をした器の方が、高価になることがあります。

このように、日本固有の「金継ぎ」という修復手法は、壊れたものを美しく修復して新たな価値を加え、また漆を接着剤に使うことによって、時を経て強度を高めるという「増価主義」そのものなのです。

「老舗は常に新しい」という言葉があります。「老舗」は古くから商売をしているだけではなく、常に時代に合わせて商売を更新しているので、「老舗」として生き残れるのです。この言葉は「ビギナーズ・マインド」と「増価主義」にもつながります。 世界最古の企業としてギネス認定されている寺社仏閣の建設会社「金剛組」は、飛鳥時代の578年創業です。聖徳太子の生年が574年とされていますので、ほぼ同じ時期の創業なのです。また2017年の東京商工リサーチの調査によると、日本には創業100年以上の企業が3万3069社あります。世界的にみても老舗企業が多い日本には、次世代に残すべき「価値」がある技術や文化があります。それらをどのようにして価値を高めて継承できるかが、今問われています。次世代に残すべき「価値」がある事業を「ビギナーズ・マインド」で見出して事業承継し、「増価主義」でさらに「価値」を高めていくことは、成熟化した日本経済にとって重要なコンセプトです。 (抜粋終わり) 今の苦境を何とか乗り越えて、新しいやり方で商売を続けていく、大変なことですが皆で支えあって乗り越えたいと思います。


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